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【1】なぜ古いコメの方が高い?― 価格逆転の不思議とその理由 ―

前回の最後に、「前年産のコメより新米の方が安い」という、少し不思議な価格について触れました。
実はこれは、私が先月、スーパーのコメ売り場で実際に目にした光景です。

新米が並び始めているのに、その隣にある前年産のコメの方が高い。

普通に考えれば、新しく収穫されたコメの方が高く、古いコメの方が安いように思えます。
ところが、値札は逆でした。

「なぜ古いコメの方が高いのだろう」
売り場でそう感じたことが、今回の話の出発点です。

そして今月、再びコメ売り場を見てみると、先月まで見かけた前年産米はほとんど姿を消し、売り場全体も落ち着いてきたように感じました。
先月のあの不思議な価格は、いったい何だったのでしょうか。

【2】同じ棚でも、「仕入れた時間」が違う

ポイントは、同じ棚に並んでいるコメでも、同じ時期、同じ価格で仕入れられたとは限らないことです。
前年産米は、コメの価格が高かった時期に仕入れられた在庫かもしれません。

一方、新米は、その後の新しい取引条件で店頭に入ってきます。
すると、高い時期に仕入れた前年産米と、その後の価格で仕入れた新米が、同じ売り場に並ぶことがあります。
その結果、古いコメの方が新米より高いという、少し不思議な逆転が起こるのです。

これは「古いコメの価値が高くなった」ということではありません。違う時期に仕入れられた商品が、同じ棚に並んでいるために起こる現象です。


【3】高く仕入れたからといって、高く売り続けられるわけではない

では、高く仕入れた前年産米は、そのまま高い価格で売り続けることができるのでしょうか。

ここで重要になるのが、消費者の選択です。
同じような銘柄、同じ容量で、新米の方が安ければ、多くの人は新米を選ぶでしょう。
すると、高い前年産米は売れにくくなります。

店側も、在庫をいつまでも棚に残しておくわけにはいきません。
値下げをしたり、特売にしたり、在庫を減らすための動きが出てきます。
つまり、高い時期に仕入れた在庫も、やがて今の市場価格の影響を受けるのです。
時間がたつにつれて、古い在庫も新しい市場の状況に合わせて調整されていきます。


【4】市場価格は、一瞬で切り替わらない

前回は、需要と供給の関係から、コメ価格がなぜ上がり、そして下がり始めたのかを考えました。

ただし、ここで一つ注意が必要です。

需要や供給の状況が変わったからといって、スーパーのすべての値札が、その瞬間に一斉に書き換わるわけではありません。
店には、すでに仕入れた在庫があります。仕入れた時期も違います。卸売業者や小売店の契約条件も違います。

そのため、市場が新しい価格へ動き始めても、しばらくの間は、以前の価格と新しい価格が同時に存在します。価格にも「入れ替わるまでの時間」があるのです。


【5】先月の「変な値札」は、調整途中だった

ここで、先月と今月の売り場をもう一度比べてみます。
先月は、前年産米と新米が同じ棚に並び、しかも前年産米の方が高いという逆転が見られました。

ところが今月、私が見た売り場では、前年産米はほとんど見かけなくなっていました。
もちろん、全国どこの売り場でも同じとは限りません。
あくまで、私が実際に見た売り場での印象です。

ただ、先月と今月を続けて見ていると、あの価格逆転の意味が少し分かってきます。
前年産の在庫が残っている間は、「古い価格」と「新しい価格」が同じ棚に並んでいた。
その在庫が減っていくにつれて、売り場も新しい価格へと入れ替わっていった。


そう考えると、先月の不思議な値札は、市場がおかしかったのではなく、市場が新しい価格へ向けて調整されている途中の姿だったと見ることができます。


【6】経済学は「結果」だけでなく「途中」も見る

経済学では、需要と供給が一致するところで価格が決まる、と説明します。もちろん、それは大切な考え方です。

しかし、現実の市場は教科書の図のように、一瞬で新しい状態へ飛び移るわけではありません。
在庫があります。契約があります。流通があります。そして、時間があります。
前回は、コメ価格がなぜ上がり、なぜ下がり始めたのかを考えました。
今回は、その価格が実際の売り場でどのように切り替わっていくのかを見てきました。

先月は不思議に見えた「古いコメの方が高い」という値札。
今月、その前年産米がほとんど姿を消した売り場を見て、あらためて感じました。

市場は、ある日突然変わるのではありません。古い価格と新しい価格が入れ替わりながら、少しずつ調整されていきます。

スーパーのコメ売り場は、その「価格調整の途中」を私たちに見せてくれていたのかもしれません。まさに、日常の中にある「生きた教材」です。本ブログでは、これからも身近な出来事を取り上げ、経済学の視点から考えていきます。どうぞお楽しみに!


執筆者プロフィール


S(イニシャル)
1964年生まれ。
公務員試験対策予備校や大学・専門学校など、様々な現場で学生を指導してきました。
得意なのは大学レベルの経済学、経営学、会計学で、究進塾では主に大学単位取得サポートコース(オンライン)を担当。

長年の豊富な指導経験から、「学生のつまづくポイント」を的確に把握しています。
堅苦しい「経済学」という学問を丁寧に解きほぐし、わかりやすく説明します。
とても親しみやすい性格で、質問もしやすいです。
生徒様お一人お一人に合わせた、また基礎を大切にした丁寧な指導がモットーです。


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