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【1】限界の基本的な考え方
今回は利潤最大点の求め方について説明します。復習になりますが、経済学では「追加的な変化」について「限界」という用語を使います。「追加的な変化」について数学では「グラフの傾き」を示します。グラフが直線の場合は「傾き」は見た目にも分かりやすいですが、曲線の場合は「接線」を引いて「瞬間的な変化量」を求めます。「限界〇〇」=「(接線の)傾き」と覚えておいてください。
【2】TR・TCの定義と利潤の発生構造
それではグラフの説明をしましょう。

縦軸は総収入(TR)と総費用(TC)、横軸は生産量(X)です。ここでは生産量=販売量と仮定しています。
総収入(TR)=価格(P)×生産量(X)
完全競争市場を想定し価格(P)を定数とします。
TR曲線は総収入曲線のことです。
総費用(TC)=可変費用(VC)+固定費用(FC)
TC曲線は総費用曲線のことで、縦軸のFCは固定費用です。
利潤(π)=総収入(TR)-総費用(TC)
TR曲線とTC曲線の垂直差(縦の差)が利潤になります。
【3】利潤がゼロまたはマイナスの領域
グラフをご覧ください。点Bと点HではTR曲線とTC曲線が交差しています。交差しているということは数値が等しいということです。
つまり「TR=TC」より「π=0」になります。点Bの左側と点H の右側はいずれもTR曲線よりもTC曲線が上に位置しており「TR<TC」より「π<0(損失発生)」となっています。生産量でみると「XBよりも少ない場合」「生産量がXHよりも多い場合」に「損失が発生」しています。生産量がXAのときにAA′の損失が発生しています。
【4】利潤がプラスとなる範囲
次に利潤が発生している範囲について確認してみましょう。点Bと点Hの間ではTR曲線がTC曲線よりも上に位置しており「TR>TC」より「π>0(利潤発生)」となっています。生産量でみると「XBよりも多くXHよりも少ない」場合に「利潤が発生」しています。
【5】限界収入と限界費用の説明
続いてグラフの傾きに注目してください。TR曲線は直線なので傾きはP(価格)になります。「TR曲線の傾き=限界収入(MR)=追加収入=価格(P)」です。
一方、TC曲線の傾きは場所によって異なるので、「接線」を引いて「限界費用(MC)=追加費用」を求めます。点Bから点Hまでの範囲について赤色矢印の傾き(TC曲線に対する接線の傾き)をみてください。生産量がXBからXGへと増加していくにつれて赤色矢印の傾きが大きくなっています。これは追加生産による追加費用が増加していることを意味しています。専門用語を使うと、「生産量の増加とともに限界費用(MC)が大きくなっている(限界費用逓増)」ということです。
【6】利潤最大化点の図形的説明
それでは利潤が最大になっているところを探してみましょう。利潤はTR曲線がTC曲線よりも上に位置しているところで発生します。生産量でみるとXCのときがCD、X※のときがEF、XGのときがGHとなります。X※のときに利潤がEFとなり最も大きくなっています。ここでは「TR曲線の傾きとTC曲線に対する接線の傾きが等しく」なっています。これは図形的な特徴であり、ミクロ経済学では「限界収入(MR)=限界費用(MC)」と表現します。これを「利潤最大化条件」といい、「追加販売による追加収入=追加生産による追加費用」という意味です。
| 【作図のポイント】 ① TR曲線に定規を合わせる ② 定規の傾きを保ったまま下に移動させてTC曲線との接点をみつける ③ TR曲線とTC曲線の垂直差が利潤の最大値となる |
【7】具体的数値による利潤最大化の理解
図形では以上のような説明になりますが、具体的な数値を使って説明しましょう。価格(P)=100円とします。これはTR曲線の傾きの大きさであり「限界収入(MR)」です。TC曲線に対する接線の傾きは「限界費用(MC)」です。生産量がXCのとき「MR>MC」となっています。たとえば「100円で販売できるものを50円で生産している状況」をイメージしてください。この場合「100円-50円=50円(利潤の増加)」となるので、企業は生産を拡大してさらに利潤を増やそうとします。生産量がX※に達するまでは限界費用(MC)は増加しますが100円以下の状態が続きます。60円→70円→80円→90円という感じで100円に近づいていきます。限界収入(MR)は100円のままで一定ですので限界収入(MR)と限界費用(MC)の差が縮まり利潤の増加分は徐々に減少します。以上の関係をまとめると次のようになります。
MR MC 利潤の増加分
100円 - 50円 = 50円
100円 - 60円 = 40円
100円 - 70円 = 30円
100円 - 80円 = 20円
100円 - 90円 = 10円
100円 - 99円 = 1円
100円 - 100円 = 0円→MR=MC(利潤の増加が止まり利潤合計が最大になる)
このように企業は少しでも利潤が増加する限り生産を拡大させます。生産量がX※に達すると「利潤の増加分がゼロ」となり利潤の増加が止まります。
つまり「MR=MC」のときに利潤の合計が最大になっているのです。この状態から生産を拡大させると「MR<MC」となります。100円の追加収入を得るために110円の追加費用が発生している状態をイメージしてください。この場合には追加の損失が10円発生しています。このような状態から生産を拡大すると追加の損失がさらに増加してしまい、これまで貯めてきた利潤を減少させることになります。直感的に「少しでももうかるなら生産量を増やす」「少しでも損するなら生産しない」ということが理解できれば十分です。
【8】まとめ(利潤最大化条件)
【まとめ】
| 企業の利潤最大化条件:MR=MC |
この条件は完全競争市場でない場合にも使える一般条件
| 完全競争市場の利潤最大化条件:P=MC |
完全競争市場ではMR=Pが成立するためMR=MCの代わりにP=MCということが多い
P=MCはMR=MCの特殊形
いつでも使えるように「MR=MC(利潤最大化条件)」を頭に叩き込んでください。「まずは覚えてから使う」でいいと思います。使っているうちに意味を理解できるようになりますよ。
執筆者プロフィール

S(イニシャル)
1964年生まれ。
公務員試験対策予備校や大学・専門学校など、様々な現場で学生を指導してきました。
得意なのは大学レベルの経済学、経営学、会計学で、究進塾では主に大学授業補習コース(オンライン)を担当。
長年の豊富な指導経験から、「学生のつまづくポイント」を的確に把握しています。
堅苦しい「経済学」という学問を丁寧に解きほぐし、わかりやすく説明します。
とても親しみやすい性格で、質問もしやすいです。
生徒様お一人お一人に合わせた、また基礎を大切にした丁寧な指導がモットーです。



