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行政書士試験の知識は実務に活かせるか?

よく「試験と実務は違う」との話を聞くことがあります。実際に、受講生から「合格したけれど、実務でやっていけるか心配だ」との相談を受けてきました。そこで、今回は行政書士試験の知識が実務に活かせるかについて、20年以上の実務経験をもとにして、試験科目ごとにお話します。

①憲法について
憲法の知識を使う場面はあまりないかもしれません。「憲法を実務で使うことはまずない」との話を学生時代に弁護士からよく聞かされました。確かに、行政書士実務においても、依頼者との相談業務の中で、憲法判例の紹介をする程度でしか使っていません。憲法の知識は行政書士実務で活かせる場面はあまりありません。

②民法・会社法について
行政書士の民事法務業務(たとえば契約書作成など)において民法の知識は不可欠です。試験で勉強した知識が活かせます。ただ、注意点もあります。この分野では、民法の特別法、たとえば借地借家法のような法律の知識もセットで必要となることがあります。特別法は自分で勉強しなければなりません。
一方、行政書士の基幹業務である許認可業務では民法の知識はそれほど活かせないでしょう。許認可を専門とする行政書士の中には、「行政書士業務は民法がわからなくてもできる」と豪語する先生もいらっしゃいます。ただ、許認可業務においても民法の知識が必要となることがあります。たとえば、建物の使用権の書類を添付する場合です。その際、建物の所有権を証明する登記簿、賃貸借契約書、使用貸借契約書などのいずれかを提出しなければなりません。これらの契約書がない場合は、行政書士は民法の知識を使って契約書を作成しなければなりません。その際に試験で学んだ知識を活かせます。

次に、会社法ですが、会社設立業務において試験の知識はとても役立ちます。試験の知識をもとにして雛形などを利用すれば十分に業務ができると思います。ですが、設立以外の会社を相手とする企業法務では試験の知識だけでは足りません。たとえば、会社で役員変更があった場合、許認可の変更手続きが必要となり、添付書類として株主総会議事録や取締役会議事録などを提出しなければなりません。この書類を作成するだけでも必要とされる知識は広範で、試験の知識だけでは不十分です。企業法務に携わりたいのであれば、改めて会社法の勉強をしなければならないと思います。

③行政法について
試験で学んだ行政法通則や行政手続法の知識は大いに活かせると思います。たとえば、建設業の簡単な申請であれば、試験の知識をもとにして、行政庁による手引書を併せて読みこなすことにより、十分に実務でもやっていけると思います。
他方、あまり活かせない知識もあります。行政書士は原則として紛争にかかわることができないので、行政事件訴訟法や行政不服審査法などの知識を活かせる場面はほとんどありません。許認可が申請拒否処分(不許可のこと)になった際に備えて、行政事件訴訟制度や行政不服審査制度を依頼者に事前に説明する程度にとどまります。

まとめ
このように行政書士試験の知識を行政書士実務で活かせる場面は限定されています。ただ、近年の難化した試験に合格した人ならば、足らない知識を後から習得することは十分可能でしょう。さらに、行政書士会も各種勉強会などを用意しており、「試験から実務への橋渡し」をしてくれますので、それほど不安になる必要はないと思います。

【執筆者】Y
究進塾の行政書士コースの担当講師。
国立大学大学院修士課程修了。
私立大学非常勤講師の経験を持ち、大手資格予備校で行政書士をはじめとする法律系国家資格の指導歴は約20年。
行政書士実務についての著書・論文もあります。

<塾よりひとこと>
誠実で実直な性格が特長の講師です。


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