ブログ
BLOG
「高校で古文の授業はあまり聞いておらず、正直何を勉強していいかわからない。今からでも間に合いますか?」
こうしたご質問は時期にもよりますが、塾へのお問い合わせとして定期的に頂くものの一つです。
実際には、「あまりやってない」「得意じゃない」「苦手」「結構やった」といった、個々人の感覚的な状況というのはあまり参考になりません。体験授業などで実際に知識を確認したり、簡単なテストを実施してその出来や、解答の根拠を聞いたりして初めて「状況」が分かります。
ただ「前提」がない以上こうした記事が書けないので、
◎高3生(あるいは高卒生)である
◎「あはれなり」という単語の意味を知らない
◎「動詞の活用」と言われてもわからない
こうした人にとって、どれだけ時間が必要なのかを考えて参りましょう。
<①単語>
大学入試に必要な古語は概ね300語程度と言われています。実際には文法も同時にやっていかないと活用した語の範囲が分からないなどいろいろな問題がありますが、基本語彙が分からなければセンテンスごとの理解ができません。
これを「見たことがある」という状態ではなく「(複数義ある場合も含め)意味が特定できる」状態にするには、いわゆる市販の単語集を4周はさせないとなりません。
1日あたり30語/1時間(60分)というペースなら、10日で1周できます。また、2周目以降は慣れが出て少し早くなりますから、
【1周目】60分×10日=10時間
【2周目】45分×10日=7.5時間
【3周目】45分×10日=7.5時間
【4周目】45分×10日=7.5時間
∴合計 32.5時間…<A>
+α:入試まで知識のメンテナンスとして1日15分は必要です。
ただし、実際にはテストを挟んだりチェックを入れたりすればさらに時間はかかりますし、4周でも覚えられないものは当然出てきます。何より、古文単語にこれだけ時間をかけるとなると、40日では足りない可能性もあります。実際には2か月~2か月半かかる生徒さんが多いです。ただ目安として【35時間程度】は確実に必要でしょう。
またメンテナンス作業はどんな生徒さんにとっても必要です。仮に5月までに4周できたとして、<6,7,8,9,10,11,12,1,2>9か月もメンテナンスが必要ですから、
【メンテナンス時間】15分×30日×9か月=67.5時間…<B>
∴古文単語<A>+<B>=100時間
古文単語だけでも100時間は必要です…
<②文法>
文法は単語ほど「しつこさ」は求められません。また、先生によっては「一部だけでよい」という方もいます。個人的には、基礎文法・用語をインストールしておかないと「自力で参考書や模試の解説が読み取れない」ため、やらないわけにはいかないと考えています。
多くの場合、ドリル型の参考書か、ポイント解説をしてある参考書を用いることになり、参考書の構成などによっても変わってくると思いますが、かかる時間の概要については下記の通りです。
(インプット時間)
【歴史的仮名遣い】…1時間(中学校で習う範囲ですから、わかっていれば割愛できます)
【用言(動詞・形容詞・形容動詞)】…1時間×5日=5時間
【助動詞の接続】…30分×7日=3.5時間
【助動詞(意味など)】…1時間×8日=8時間
【助詞】…1時間×3日=3時間
【敬語】…2時間
【識別】…1時間×5日=5時間
∴合計26.5時間…<A>
上述のように「しつこさ」はさほど重要でないので、1周することを前提としています。これは、単語と異なり「法則」を見抜くことが文法学習の核であるからです。「各語の働きをもとに根拠をもって内容が把握できる」ことができればいいわけですね。実際私が授業で説明/課題として生徒さんに課すのも基本的にはこれぐらいの時間です。
文法についてもメンテナンスは必要ですが、数回「覚えた」という程度に達すれば、あとは入試問題(あるいは読解問題)で確認が可能ですから、単語ほど「入試まで継続する」という必要性はありません。試験直前に曖昧なところだけを覚え直すだけでいいでしょう。
【メンテナンス時間】概ね6時間(インプットの半分程度)×2回=12時間…<B>
∴文法知識<A>+<B>=約38.5時間
文法については単語の1/4程度の時間で間に合う目算ですし、実際勉強時間の按分もその程度です。
<③読解(過去問を含む)>
ここまでお読みいただければ何となくお分かりになるかもしれませんが、単語と文法が早い時期に消化できれば、それだけ読解の練習に時間を割けるようになります。また、古文の読解については、学習した出典が入試当日に出題されることもまれにありますし、説話文学などのように、ジャンルによっては話の展開の仕方が比較的ワンパターンであることも多いです。すなわち、「練習した分、力がつく」ということが言えます。
知識があやふやな生徒さんほど、読解と言っても一つ一つのセンテンスの品詞分解などに終始してしまい、文章を俯瞰できなかったり、一つ一つの文章の文法問題だけに焦点を当ててしまったりと、効率の悪い学習になりがちです。やはり「単語と文法の目途は遅くても8月までに」終えておく必要があると言えるでしょう。
そのうえで、例えば予備校や参考書によってはジャンルごとの読解法についても配慮があるかもしれませんが、「独学で、市販の問題集を用いて」読解の練習を積んでいく場合、どれぐらいの時間がかかるのかを考えますと、
【1題あたり、解答にかかる時間】…20分
【1題あたり、解説と現代語訳の確認にかかる時間】…45分
【1題あたり、読み直しをするのにかかる時間】…15分×3回
【単語・文法の参考書の照会時間】…10分
合計 2時間/1題
1題あたり2時間というのが平均の時間です。(ただし、単語や文法の知識があやふやな状況ですと解説の読解にさらに時間がかかります)
仮に共通テスト対策であれば、過去問を(センター試験/追試験も含め)5題以上はこなさないとなりません。
共通テストはまだ出題履歴が僅かなので、各予備校が出している練習問題も5題はやっておきたいところです。
さらに、私大・国公立大の過去問も、受験する大学一つについて5題はやらなければならないでしょう。
すると、
【市販問題集】2時間×15題=30時間
【共通テスト過去問】2時間×5題=10時間
【共通テスト実戦問題】2時間×5題=10時間
【私大・国公立大】(4大学として)2時間×5題×4大学=40時間
合計 90時間/45題…<A>
実際には、解き終えてからの復習も必要です。これが1題あたり20分とすると、
【復習】20分×45題=15時間…<B>
∴読解<A>+<B>=105時間
ということで、①古文単語②文法③読解
いずれも充分に時間を取るとして
100+38.5+105=243.5時間
程度となるでしょう。
ただ、これは「ノー勉」の受験生が、ゼロからスタートした場合です。理解が進んでいれば、もっと時間が少なくても済むことが多いでしょう。またとても大事なこととして、学校の授業をきちんと聞いておけば、実際には文法は15時間もあれば足ります。古文単語なども学校で実施される単語テストを毎回ちゃんとやっておけば、2周程度でメンテナンスに入ることも可能でしょう。何より、有名出典に触れることができ、経験値を積むことができるということからも、学校の古文の授業も、しっかりと受講しておきましょう。
私大文系の人ならまだしも、国公立大を第一志望としている人、特に理系で大学入学共通テストのみ、という人の場合は、古文(漢文も)に費やせる時間は決して多くないはずです。ですから、「学校でやらなかった分、高3(あるいは浪人生活)で取り戻す」などという甘い考えは捨ててください。高校にいるうちから、勝負は始まっています。
粕川優治 究進塾副代表。文系大学受験、および日大内部進学コースの責任者をしております。 |