行為能力とは?
法律の世界には「行為能力」という言葉があります。これは簡単に言うと、自分で契約を結んだり、法的に意味のある行為を有効にできる力のことです。権利そのものを持つ「権利能力」とは異なり、実際にその権利を使いこなす力を指します。
ただし、この行為能力は誰にでも同じように認められているわけではありません。未成年者や成年後見を受けている人たちは「制限行為能力者」と呼ばれ、一定の制限を受けます。ここでは特に未成年者に注目してみましょう。
未成年者は勝手に契約できない?
民法では、18歳になるまでは「未成年者」とされます(2022年の法改正で、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました)。
未成年者が契約などの法律行為をするには、基本的に親や未成年後見人といった法定代理人の同意が必要です。もし同意を得ずに契約した場合、その契約は「取り消すことができる」とされています。
つまり契約自体は一応成立しますが、後から未成年者側が「やっぱりやめます」と言えば無効にできる仕組みです。
例外となるケース
- もらうだけの贈与契約
- お小遣いの範囲での買い物
- 親に営業を許可された場合、その営業に関する行為
これらは同意が不要、または大人と同じ行為能力が認められます。
取り消されたらどうなる?
未成年者が契約を取り消すと、その契約ははじめからなかったことになります。受け取ったお金や品物は返さなければなりませんが、すでに使ってしまって残っていない場合は「現に残っている分」だけ返せばよい、と定められています。これは未成年者を守るためのルールです。
悪用されたら困る ― 詐術の場合
問題になるのは、未成年者が自分の未成年であることを隠して契約した場合です。民法21条には「制限行為能力者が詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない」とあります。
つまり「自分は18歳です!」とウソをついて相手を信じ込ませたのに、あとから「実は未成年だから取り消します」とは認められないということです。
有名な判例:最判昭和44年2月13日
最高裁はこの点について、単に無能力者であることを黙っていただけではなく、他の言動も合わせて相手を信じ込ませた場合に「詐術」と認めると判断しました。
ただ未成年であることを黙秘していただけなら、相手が注意すれば見抜ける可能性があります。その場合は未成年者保護を優先します。しかし巧妙にだまして取引させた場合は、取消しは認められません。
この判決は「未成年者を守る」と「取引の安全を守る」のバランスを示したものです。未成年者が常に契約を取り消せるなら取引は不安定になりますし、逆に保護がなければ未成年者が危険にさらされます。法律はその中間を探っているのです。
まとめ
- 未成年者は原則として法定代理人の同意が必要
- 取消しが認められる一方、詐術があれば保護されない
- 最高裁判例は「保護」と「取引の安全」のバランスを示した
条文だけでは堅苦しく見える制度も、判例を通してみると「未成年者を守りつつ、相手をだましちゃダメ」というシンプルなメッセージが見えてきます。これが未成年者の行為能力制度の面白さであり、難しさでもあるのです。