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昨今日本では総合型入試が活発に行われていて、受験生のペーパーテスト的な学力以外の能力や特性、経験を評価した上で選抜したいという大学が増えています。入試形態の比率において、総合型の入試は上位の私立に関しても6割を超える大学もあったりしますし、とても一般的なものになっています。入試の裾野が広がることのメリットは社会的にも大きいですよね。様々なバックグラウンドを持った人がその人の得意な技能を活用して入試に臨めるのは良いことだと私も思っています。

実際に大学に入ってみると、出身高校のレベル(いわゆる学力レベル)が必ずしも重要な訳ではなく、学力以外の観点から人選をした方がいいんじゃないかと思えるシーンにはたくさん遭遇すると思います。全ての土台となる論理的かつ批判的思考力は大切ではありますが、人間性や感性、経験や技能など重要な要素は様々にあり、ペーパーテストのスキルに固執するのはあまり歓迎される考え方とは言えませんよね。

今回は日本と海外を対比しつつ総合的な選抜の課題点を「アファーマティブアクション」という観点から掘り下げてみたいと思います。実は入試形態に関して日本と海外では現状が異なっていて、総合的な選抜方式の採用がとりわけ進んでいるのが米国です。というのも、米国を始めとした外国では、ペーパーテスト以外の要素を重視するという傾向は今に始まったことではなく、むしろ一般的な選抜方式と言えるんですよね。

ここからは実際の海外の入試において問題とされている課題点について具体的に言及をしていきたいと思います。総合的な選抜の中で、各国の国策として取り組まれている「アファーマティブアクション」と呼ばれている政策があります。これは過去の差別や不公平な取り扱いに対する是正を目的として、特定の人種や性別、民族、あるいはその他の特定のグループに対する優遇措置やポジティブな差別を含む政策です。優遇されがちな白人よりもアジア系や黒人、ヒスパニック系の人々に利益をもたらす意図があります。

例えば大学入試では、学生の選抜プロセスにおいてある特定の人種やグループが過去の差別や不公平な取り扱いにより不利になっていると認識された場合、その候補者に対してポジティブな差別を行うことがあります。入学基準を若干緩和したり、特定の奨学金や支援プログラムを提供したりすることになります。具体的には、入試の点数では黒人の受験生が白人の受験生よりもペーパーテストの点数が低くても大学に合格できるというような人種差別における是正措置となっています。日本はガラパゴス的に人種の多様性に欠けていますが、外国では様々な人種が混在していて特定の人種がマジョリティではないケースもありますからね。

ただ、この格差や差別を是正するはずのアファーマティブアクションにも欠点はあります。例えば以下の4点を代表的な例として挙げてみましょう(日本ではあまり想像できない例もあるということが、このテーマにおいて日本が後進的であることの証左でもあります)。

①逆差別の可能性
特定の人種や民族に所属する学生が優遇される場合、それによって他の候補者の学生が不利益を被る可能性があります。例えば、アジア系アメリカ人の学生が、彼らの出願における高い平均スコアや成績をもかかわらず、アファーマティブアクションの影響で入学枠が制限されることがあるという報告があります。一般化すると、白人が不利益を被る可能性があるということで、これは逆差別と見なされる場合があります。

②実力との不一致
実際の入学者と想定されていた候補者の実力や能力との不一致が生じる場合があります。例えば、一部の大学では、アファーマティブアクションのために入学基準が緩和され、入学した学生が本来の実力に見合わないと感じることがあります。これは本末転倒と言える事態で、入学許可をした学生の能力が思ったほどではなく、期待を裏切る結果となってしまったというパターンですね。

③システムの透明性の欠如
入学選考におけるプロセスが不透明であるというケースです。どのような基準でアファーマティブアクションを適用するかを明確にせず(明確にできないという事情もあります)、公正性や透明性の欠如を招くことあるということは十分に想定されるでしょう。

④ステレオタイプの強化
一部の人々が特定の人種や民族が能力不足である、あるいは彼らがアファーマティブアクションによって入学したのだろうという人種的なステレオタイプを強化する可能性があります。特定の候補者がその恩恵を受けることで、その人が能力や資質に劣った人間だという誤った印象を広めることがあります。

これらの欠陥については方々で具体的に言及されている実例が沢山あるのですが、私が最近見たYouTubeを一つ紹介しておきます。英語が分からないと内容を100%理解することはできないものの、日本語字幕をオンにすれば彼の言いたいことの要点は大体分かると思います。

The Real Victims of Affirmative Action | 5 Minute Video

実際は米国におけるアファーマティブアクションに対する考え方は日本のはるか先を行っていて、色々な施策を実施した上で、巡り巡ってアファーマティブアクションってあまり有効ではないのではないかという結論に達しつつあります。人種や性別による是正措置は一周回ってNGになっている州があったり、様々にある差別の中で人種差別的な要因を重視するわけにはいかず、その他のマイノリティ(もちろん人種以外にも多くの側面があります)と一緒に評価するなど試行錯誤をしてきたという現状があります。日本ではまずその概念の認識自体が広がっていないですから、スタートラインにさえ立てていないと言えるかもしれません。これは地理的な要因が大きいので、ことさらに問題視するべきものではないのですが、もう少し議論の土台が醸成されてもいいような気はしています。

ここまでほぼ海外の話になってしまったのですが、この手の議論において日本の入試で実際に話題に上るのは男女比率くらいかなという印象です。ダイバーシティというとどうしても性別の話になることが多いですからね。最近では京都大学で特色入試(総合型選抜および学校推薦型選抜)において女性募集枠を設けるというニュースがありました。京都大学のような総合大学はある程度男女比率が保たれていると思いますし、貧困層の支援など性別以外に優遇されるかどうかを議論するべき要素はたくさんあるように感じます。男女比率をどうするべきかよりも、金銭的事情などで大学を選べる立場にはない人を救済することに目を向けることの方がよほど大切なのになあと個人的には感じています。

総合型の入試についての各国事情についてもう少し掘り下げたかったのですが(高騰する海外のお受験事情など本当に色々とあります)、文章が長くなってしまったので今回はここまでにしたいと思います。日本で議論されている総合型入試に関しては、我々は当事者ですから適切に対応しないといけないという前提はありつつも、それは日本人の視点から捉えた一面的なものに過ぎないというのも事実ですから、海外の事例について自分なりに調べてみるとまた違ったものを見えてくるかもしれないですね。この辺りは日本語と英語の情報量の違いが如実に出てきますから、この機会に英語学習を頑張ってみるのも良いと思いますし、それはさすがに大変でできないという方は、ChatGPTのようなAIツールを使ってぜひ色々と情報を探索しみてください。

今回は海外の例を挙げながら、アファーマティブアクションのデメリットを中心にお話ししてきました。日本の総合型入試については少ししか触れることができませんでしたが、また深掘りする機会があれば詳しくお話をしていきたいと思っています。

松本先生

ICU(国際基督教大学)卒。物腰が柔らかで話しやすく、生徒の性格に合わせた指導が特徴の英語講師です。大学受験英語のほか、四技能指導を得意としており、英検やTOEIC・TOEFLなど英語資格試験の指導でも活躍中。

 


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