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教育を生業としている都合上、さらに私自身が子育てをしている関係で「早期教育に意味はあるのか?」というテーマには大きな興味を持っています。

私がこれまでの指導経験で出会ってきた生徒さんは、教育熱心なご家庭が多かったので、中には小学校受験など、早期教育をされてきた方もいました。ただ、実感から言うと、これまで会ってきた優秀な方は、早い方でも中学受験から勉強を本格的にスタートした方、遅い場合は高校受験から目覚めた、という方でした。

また、当塾の講師として活躍している先生やスタッフに経歴を聞くと、意外にも「中学生まではあまり勉強に熱心でなかったけれど、高校生から火がついた」という方が多くいました。

そんな中で、幼児教育の大家とも言える、汐見稔幸先生の「教えから学びへ」を読んでいて、興味深い記述に出会いました。(以下、しばらく引用になりますが、ご了承ください)
早期教育での稀な成功例として、ジョン・スチュアート・ミルを挙げていました。「自由論」を書いた政治哲学者として、高校生でも政治経済で名前が出てくる偉人ですね。


彼は三歳から英語以外にギリシア語を教わり、八歳までにプラトンの著作や歴史の本を読み、八歳でラテン語を学び始め、十歳を過ぎる頃にはラテン語やギリシア語の本も読み始めたそうです。

ところが、二十一歳の時に激しいうつになってしまいます。

理屈での議論はできても、語義と対応する意味の世界ができていなかったのです。理屈だけで議論し、感情の世界で議論ができない。つまり、言葉の意味が自分の心につきささってこないのです。

汐見先生はこの本の中で以下のように結論づけています。

早期教育を受け、ものすごい努力をして語義の世界を頭の中に記憶させておくことはできたとしても、人間として豊かに生きることは簡単ではありません。想像力や感情の世界を大事に育てることなく幸せに生きるのは難しいのだと思います。

早期教育は「わかる」までの大切なプロセスを邪魔するものであり、妨害してしまう可能性が大きいのです。

汐見先生のこの意見は、これまで私が抱いてきた実感を裏付けするものでした。

私の経験則としては、早くから保護者様が主導で塾に通わされてきた方は、主体性が弱く、少なくとも塾での学習に臨む姿勢は、無気力とも言える方の割合が多かったです。

ついでにもう一つ引用させていただくと、千代田区立麹町中学を校長として改革した工藤勇一先生は「自律する子の育て方」の中で以下のように述べています。

自分の子どもの将来を案じることは親として当然のことですが「あれをしなさい」「これをしないさい」「あれはダメ」「これもダメ」と周りの大人が言い続けていると、子どもは自己決定の機会が与えられないため、自分で考える能力や新しいことに挑戦していく姿勢が育ちません。仮に大人のお膳立てで一流と言われている大学に入ることができたとしても、そのような状態で激動の社会を自分の足でたくましく生き抜くことができるでしょうか。

中学校の教諭、校長先生として何人もの生徒を見てきた工藤先生の発言は説得力があります。この考えも、私がこれまで指導者として感じてきた疑問、違和感を明確に説明してくれています。

昨今、早期教育が加熱しているという報道を見るにつけ、そこに対しての疑問を抱いておりましたが、二人の専門家の書籍を読むと、本当に必要か?という想いを強くせざるを得ません。

 

<今回の記事に登場する書籍>
工藤勇一、青砥瑞人『自立する子の育て方
汐見稔幸『教えから学びへ


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