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風景が「贈り物」に変わるときーアンサンヒーローと幸福な負債

いきなりですが、皆さんは「アンサンヒーロー」(Unsung Hero)と言う言葉をご存じですか?

Googleで検索すると、英語で「詩歌にうたわれない英雄」を意味し、功績が正当に評価されない「陰の功労者」や「縁の下の力持ち」を指す言葉だそうです。

僕は子どもが生まれてから、住んでいる街にはアンサンヒーローが大勢いることに気が付きました。

子どもが保育園に通っているときによく通っていた近所の公園では、毎朝決まって掃除をしているおじいさんがいました。その方はボランティアで掃除をしているのですが、毎朝、「おはよう」と話しかけてくれて、「ちょっと見ないうちに、大きくなったな~」と声をかけてくれました。さらに、掃除をして、きれいになった砂場に毎日いろいろな絵を描いていました。ネコやイヌ、カニ、カエル、クジラ、アンパンマンなどなど・・・うちの子は「今日は何かな?」と楽しみにしていました。毎日変わらず声をかけてくれるので、私も毎朝、公園に通うのが楽しみでした。

それ以外にも、犬を2匹連れたおじいさんにもよく会います。このおじいさんも子どもを見ると、嬉しそうに話しかけてくれました。そしていつも近所の犬を連れた他の人と楽しそうに交流しています。

また、小学校に入ったことで、父親の会にも少しずつ参加するようになりました。すると、
その会主催のイベントが年間何回も行われていました。夏は水風船大会、秋は父親の会主催の運動会、冬は節分大会などです。当たり前ですが、ボランティアで、「子どもたちの笑顔のために」を合言葉に、全力で子どもたちを楽しませようとしています。時には、水風船を当てられてびしょ濡れになりながら。

正直なところ、最初は私も及び腰でした。おそらく体育会系、もしくはパリピ的な人たちだろうなと思っていたら、両方でした・・・。自分とは縁遠い人たちだ、と感じていたのも事実です。ですが、子どものために全力を尽くす姿、それも自分のこどもだけでなく、小学校に在学中で、参加を希望する子どもは誰でも参加できるイベントのために準備をし、開催するという「熱量」を目の当たりにすると、心動かされるものがありました。

そして、少しずつ自分の中の見方も変わっていきました。

それぞれ形は違いますが、共通点としては、誰に言われたわけでもなく、また、仕事でもなく、自主的にボランティアでこのような行動を行っているという点です。

放課後の学童に行くと、見守りの方々もいます。この方々はボランティアではなく、お仕事だと思いますが、仲間と楽しそうに話しながら、子どもたちに話しかけて、子どもの日々の小さな成長を喜び、祝福してくれる存在です。

一方で、「日本では子育てはしにくい」という声も聞きます。それも一面ではあると思います。例えば、駅前の駐輪場で停めた子ども座席付の自転車がパンクさせられたり、とか、妻がベビーカーで子どもを乗せていたときに、知らない人に舌打ちされたり、など、ネガティブな出来事がなかったわけではありません。

ただ、それ以上に、子どもを祝福してくれている大人が、身近なところにこんなにもいるのだということを知りました。それは大きな発見でした。

私はふと、近内悠太さんの著作『世界は贈与でできている』で語られた話を思い出します。近内さんは映画『ペイ・フォワード』を引用しながら、本当の贈り物は「返せない相手から受け取り、別の人へ回していくもの」だと語っています。

もしかすると、彼らがこれほどまでに無償で誰に頼まれたわけでもなく『勝手に』動けるのは、かつて自分も誰かから『返しようのない贈り物』を受け取ったという、幸福な負債感があるからではないか。そして、その贈り主がもう目の前にいないからこそ、彼らは、今の子供たちにその分を返しているのではないか、そんな仮説が想起されます。

正直なところ、私はもともとそれほど社交的なタイプではありませんでした。むしろ、子どもが生まれるまでは、恥ずかしながら、相当に「閉じていた」タイプだと思います。「他人は皆風景」という感覚に近く、同じ街に住んでいる人に面識もなければ、特に関心も持っていませんでした。

ですが、子どもが生まれ、子育てをするようになってから、公園に足を運ぶようになり、少しずつですが自然と人と関わる機会が増えました。

その中で、公園に集まる人が垣間見え、そこから、アンサンヒーローの存在に気が付きました。
そして「街にはアンサンヒーローがいるかもしれない」という視点で世界を見るようになってから、これまで見えていなかったものが、少しずつ見えるようになってきました。
もしかすると、街は思っている以上に、こうした「贈与」を回し続ける人たちによって支えられているのかもしれません。

そう考えると、かつてはただの背景だったいつもの風景も、誰かからの贈り物の集合体のように、少し違って見えてきます。

並木陽児

究進塾代表。最近は老化による免疫力の低下を痛感し、これから健康に時間と労力をかけないと・・・と思う今日この頃です。

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