自然人と権利能力 ― 人はいつから権利を持つのか
民法では、権利や義務の主体を「自然人(人間)」と「法人」に分けて扱います。自然人は 生まれた瞬間に権利能力を取得し、死亡と同時に失う(民法3条)とされています。
この「権利能力」とは、権利や義務の主体となれる力のこと。土地を所有したり、契約の当事者になったり、相続を受けたりできるのは、この力があるからです。
胎児にも認められる場合がある
例外的に、胎児にも一定の範囲で権利能力が認められます。たとえば、
- 相続(民法886条)
- 遺贈(民法965条・886条1項)
- 不法行為による損害賠償(民法721条)
などの場合、胎児は「すでに生まれた者」とみなされます。生まれてきたときに初めて有効になる、いわば 条件付きの権利能力 です。
意思能力 ― 行為の意味を理解する力
「意思能力」とは、自分の行為の意味や結果を理解できる力のことです。民法3条の2では、意思能力がない状態で行った法律行為は「無効」と定められています。
たとえば、小さな子どもや重い精神障害を持つ人が契約を結んでも、その行為は有効と認められない可能性があります。ここで重要なのは、年齢などで一律に線引きするのではなく、個々の状況ごとに判断されるという点です。
行為能力 ― 一人で有効に契約できるかどうか
「行為能力」とは、単独で有効に法律行為をする力を指します。意思能力があっても、法律上は「一人ではダメ」と制限される場合があります。
未成年者の契約
代表例は未成年者。民法5条によれば、未成年者が契約するには親の同意が必要です。同意を得ずに結んだ契約は、後から親に取り消されることがあります。ただし、日用品の購入など、日常生活に必要な行為は例外的に有効とされています。
成年後見制度による保護
さらに重要なのが成年後見制度(民法7条以下)。判断能力に不安がある人を守るために、
- 後見
- 保佐
- 補助
という段階的な支援制度があります。これは「本人の保護」と「取引の安全」の両立を目指す仕組みです。
まとめ ― 民法がめざす安心の仕組み
- 自然人は生まれた瞬間に「権利能力」を持つ
- しかし「意思能力」がなければ行為は無効
- 「行為能力」に制限がある場合は、親権や成年後見制度で保護される
民法は、すべての人に権利を認めつつ、能力に応じた保護を用意しています。つまり、私たちが安心して取引できる社会を支えるルールこそが民法なのです。