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【1】政策金利は住宅ローンや預金にどう届くのか

「日本銀行が政策金利を引き上げました。」ニュースでこう聞いても、それが自分の生活とどうつながるのか、すぐにはイメージしにくいかもしれません。日本銀行と私たちの財布の間には、かなり距離があるように見えるからです。

前回は、政策金利として重要な役割を持つ無担保コールレート(オーバーナイト物)についてみてきました。日本銀行が働きかけているのは、まず金融機関同士がごく短期間のお金を貸し借りするときの金利です。では、その金利の変化が、どのように住宅ローンや預金、そして日々の買い物にまで届くのでしょうか。

ここでも大切なのは、ニュースで伝えられる「原因」と「結果」の間を見ることです。

まず「住宅ローン」から考えてみましょう。政策金利が上がると、その影響は金融市場から銀行へ、そして銀行が企業や家庭にお金を貸すときの金利へと少しずつ広がっていきます。住宅ローンの金利が上がれば、新しく住宅を購入しようとする人にとっては、同じ金額を借りても返済負担が大きくなります。

すでに住宅ローンを利用している人への影響は、契約によって異なります。固定金利なら、政策金利が上がったからといって、契約期間中の金利がすぐに変わるわけではありません。一方、変動金利では、金利の見直しを通して将来の返済負担に影響する可能性があります。

つまり、「日本銀行が利上げしたから、住宅ローンの返済額がすぐに増える」と単純に考えることはできません。ここにも、政策金利から私たちの生活へ届くまでの途中の仕組みがあります

では、金利が上がることは家計にとって悪いことばかりなのでしょうか。そうとも限りません。お金を借りている人にとって金利は支払う費用ですが、お金を預けている人にとっては受け取る利息になります。預金金利が上がれば、預金を持つ人にはプラスに働きます

同じ「金利上昇」というニュースでも、住宅ローンを借りる人と、預金を多く持つ人とでは見え方が違うのです。経済ニュースを読むときには、「誰にとっての話なのか」を考えることも大切です。


【2】利上げはなぜ物価上昇を抑えるのか

そして、金利の影響は個人の財布だけでは終わりません。住宅や自動車などの大きな買い物を控える人が増え、企業も借入れを使った設備投資に慎重になれば、経済全体では消費や投資が弱くなります。

ここで、物価の話につながります。

なぜ日本銀行は、物価が上がりすぎたときに金利を上げるのでしょうか。金利を上げても、スーパーの商品に「値下げしてください」と命令できるわけではありません。

金利が上がると、お金を借りる負担が増えます。すると消費や投資が弱まり、経済全体の需要が少し落ち着きます。需要が弱くなれば、企業も価格を上げ続けにくくなります

つまり、利上げは物価を直接下げるのではなく、私たちや企業の行動を通して需要に働きかけ、その結果として物価上昇を抑えようとする政策なのです


【3】物価上昇の「原因」によって利上げの効果は変わる

ところが、ここで一つ疑問が出てきます。物価が上がっているときは、いつでも金利を上げればよいのでしょうか。

例えば、景気が良く、消費や投資が活発になりすぎて需要が増え、その結果として物価が上がっているなら、金利を上げて需要を抑えるという考え方は分かりやすいでしょう。

しかし、原油や原材料、輸入品などの価格が上がり、企業の生産費用が増えたことで物価が上昇している場合は事情が違います。国内の金利を上げても、海外の原油価格そのものを直接下げることはできません。それでも強く利上げをすれば、物価高の原因が十分に解消されないまま、国内の消費や投資だけが弱くなる可能性があります。

だから、日本銀行にとって重要なのは、「物価が上がっている」という結果だけを見ることではありません。「なぜ物価が上がっているのか」を考えることです。


【4】相関関係と因果関係から経済ニュースを読み解く

ここは、前に見た「フィリップス曲線」の話ともつながります。失業率が低く、物価が上がっているという二つの数字だけを見れば、景気が強いように見えることがあります。しかし、人手不足によって失業率が低く、原材料費や輸入価格の上昇によって物価が上がっているのであれば、中身はまったく違います。

ここで、「相関関係」と「因果関係」の違いをもう一度確認しておきましょう。

「相関関係」とは、二つのものが一緒に動くような統計的な関係のことで、そこに原因と結果の関係があるとは限りません。

一方、「因果関係」とは、一方が原因となって、もう一方の結果につながる関係です。
つまり、失業率が低く、物価が上がっているという関係が見えても、「景気が良いから物価が上がっている」とは限りません。

同じ数字の組み合わせでも、その原因が違えば、経済の状態も必要な政策も変わってくるのです

「利上げ」という一つのニュースから、住宅ローン、預金、消費、企業の投資、そして物価までがつながってきました。ニュースではそれぞれ別々に報じられますが、経済学を使って途中の仕組みをたどると、一本の流れとして見えてきます。

これからのブログでは、こうした身近な経済ニュースを入口にして、「なぜそうなるのか」という途中の仕組みをたどりながら、その背景にある経済理論を一緒に考えていきたいと思います。


執筆者プロフィール


S(イニシャル)
1964年生まれ。
公務員試験対策予備校や大学・専門学校など、様々な現場で学生を指導してきました。
得意なのは大学レベルの経済学、経営学、会計学で、究進塾では主に大学単位取得サポートコース(オンライン)を担当。

長年の豊富な指導経験から、「学生のつまづくポイント」を的確に把握しています。
堅苦しい「経済学」という学問を丁寧に解きほぐし、わかりやすく説明します。
とても親しみやすい性格で、質問もしやすいです。
生徒様お一人お一人に合わせた、また基礎を大切にした丁寧な指導がモットーです。


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