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【1】前回の記事から今回へのつながり

前回の記事では、政府が100の公共事業を行ったとき、その支出が一度で終わるのではなく、所得と消費の連鎖を通して経済全体に広がっていくことを見てきました。

最初の支出は、止まったポンプに注がれる「呼び水」のようなものであり、その一度の注入が、止まっていた経済循環を再び動かし始めるという話でした。

今回は、その話をもう一歩整理してみたいと思います。
ここまでの流れを、「注入」と「漏れ」の関係として整理すると、次のようになります。


【2】「注入」と「漏れ」で経済循環を見る

この図で見ておきたいのは、

政府支出が「国内経済循環への注入」であり、貯蓄が「国内経済循環からの漏れ」であるという点です。

政府が一度だけ100を注入すると、そのお金は所得となって循環を広げますが、同時にその一部は貯蓄として少しずつ循環の外へ漏れていきます

経済の大きさは、最終的にこの「注入」と「漏れ」が釣り合うところで決まるのです。
では、なぜ100の支出が500の所得になるのでしょうか。

ここで鍵になるのが、「貯蓄率」という考え方です。


【3】貯蓄率から全体の所得を考える

人は所得を得たとき、そのすべてを消費するわけではありません。
ある部分は消費に回りますが、残りは貯蓄になります。もし所得の2割が貯蓄に回るとすれば、経済全体で生まれた所得の2割が、最終的には貯蓄として残ることになります。

言い換えれば、
「全体の所得 × 貯蓄率 = 貯蓄」
という関係が成り立ちます。
そして逆に見れば、
「全体の所得 = 貯蓄 ÷ 貯蓄率」
と考えることもできます。

今回の例では、政府が最初に注入した金額は100です。そして経済循環が落ち着くためには、最終的にその100と同額の貯蓄が生まれていなければなりません。

つまり、先に「必要な貯蓄の総額」を見て、そこから「その貯蓄を生み出すためには、全体としてどれだけの所得が必要か」を逆に考えるわけです。

ここで大切になるのが「逆算の思考法」です。


【4】100が500になる理由と「乗数」

仮に貯蓄率が0.2であるなら、100の貯蓄を生み出すために必要な所得は、500になります。なぜなら、
500 × 0.2 = 100
となるからです。
ここから逆に見ると、
500 = 100 ÷ 0.2
と書けます。さらに、
500 = (1 ÷ 0.2) × 100

ですから、
1 ÷ 0.2 = 5
となります。

この 5 が「乗数」です。


【5】乗数理論が説明していること

つまり「乗数」とは、政府が行った支出が、経済全体の中でどれだけの所得拡大を生み出すか、その「経済的波及効果を表す数字」なのです。

今回の例では、政府支出100が5倍に広がり、最終的に500の所得を生み出したことになります。

ここまで来ると、「乗数理論」は単なる計算ではなくなります。支出が所得を生み、その所得の一部が再び支出に回りながら、貯蓄という漏れによって少しずつ吸収され、最終的に「注入=漏れ」になったところで落ち着く。その全体の過程を説明している理論なのだということが分かります。

そしてケインズは、この「乗数効果」に着目することで、止まってしまった経済循環をどのように再起動させるかを考え、世界大恐慌のような深刻な不況を乗り切るための理論を構築したのです。


【6】次回への予告

次回は、この「貯蓄率」と「消費率」の関係をさらに整理しながら、なぜ乗数が「1 ÷ 漏れ率」という形になるのかを、もう少し丁寧に見ていきましょう。


執筆者プロフィール


S(イニシャル)
1964年生まれ。
公務員試験対策予備校や大学・専門学校など、様々な現場で学生を指導してきました。
得意なのは大学レベルの経済学、経営学、会計学で、究進塾では主に大学単位取得サポートコース(オンライン)を担当。

長年の豊富な指導経験から、「学生のつまづくポイント」を的確に把握しています。
堅苦しい「経済学」という学問を丁寧に解きほぐし、わかりやすく説明します。
とても親しみやすい性格で、質問もしやすいです。
生徒様お一人お一人に合わせた、また基礎を大切にした丁寧な指導がモットーです。


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