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【1】景気と失業・物価の基本的な関係
前回の記事では、景気循環とは、需要の拡大と縮小が繰り返されることで生まれる「波」であることを見てきました。需要が強くなると景気は良くなり、逆に弱くなると景気は悪くなる。この流れが、好景気と不景気を生み出していました。
今回は、この景気の動きをもう少し具体的に捉えるために、「失業」と「物価」という二つの視点から考えてみたいと思います。
まず「景気と失業の関係」です。
景気が悪くなると、企業はモノやサービスをあまり売ることができなくなります。すると、生産を減らさざるを得なくなり、その結果として雇用も減っていきます。
つまり、
・ 景気が悪い → 生産が減る → 雇用が減る → 失業が増える
という流れになります。
逆に、景気が良くなると、
・ モノがよく売れる
・ 生産が増える
・ 人手が必要になる
ため、雇用が増え、失業は減っていきます。
このように、失業は景気の状態を非常によく表す指標です。
次に「物価との関係」を見てみましょう。
景気が良くなり、需要が強くなると、企業はより多くの商品を売ろうとします。
しかし、生産には限界があります。人手や設備がすぐに増やせるわけではありません。
その結果、需要に供給が追いつかなくなり価格が上昇しやすくなるという状況が生まれます。
つまり、
・ 景気が良い → 需要が強い → 物価が上がりやすい
という関係になります。
一方で、景気が悪くなると、
・ モノが売れない
・ 需要が弱い
ため、企業は値上げができなくなり、場合によっては値下げをせざるを得ません。
したがって、
・ 景気が悪い → 物価は上がりにくい(あるいは下がる)
ということになります。
ここまでをまとめると、
| ・ 景気が悪いと失業が増える ・ 景気が良いと物価が上がりやすい |
という関係が見えてきます。
【2】失業と物価のトレードオフ(フィリップス曲線)
ここで重要なのは、この二つ(失業と物価)が同時にうまくいくとは限らないという点です。
たとえば、失業を減らそうとして景気を強く刺激すると、需要が一気に増えます。その結果、雇用は改善しますが、今度は物価が上昇しやすくなります。
逆に、物価の上昇を抑えようとして需要を抑えると、今度は景気が弱くなり、失業が増えやすくなります。
つまり、
失業と物価の間には、ある種のバランス関係があるということです。これを「失業と物価のトレードオフ」といいます。
この関係は、経済学ではよく知られており、「フィリップス曲線」と呼ばれる考え方で表現されます。
難しい言葉に聞こえるかもしれませんが、意味はシンプルです。
景気が良いと失業は減るが、その分、物価は上がりやすい
景気が悪いと物価は落ち着くが、その分、失業は増えやすい
という関係を示しているだけです。

【3】現在の日本を見るときの注意点
では、現在の日本はどうでしょうか。
日本では、失業率が低い状態が続き、多くの業種で人手不足も見られます。その一方で、物価も上昇しています。失業率が低く、物価が上がっているという二つの数字だけを見ると、フィリップス曲線が示す関係に当てはまっているように見えます。
ここで注意したいことがあります。
「失業率が低いこと」と「物価が上がっていること」が同時に見られるからといって、失業率の低下が物価上昇の原因だとは限りません。
「相関関係」とは二つの現象の間に見られる統計的な関係のことです。ただし、相関関係があるからといって、必ずしも因果関係があるとは限りません。
一方「因果関係」とは、ある出来事が原因となり、その結果として別の出来事が起こる関係のことです。
つまり、二つの現象が同時に動いているように見えても、原因と結果が直接結びついているとは限らないのです。
それでも、私たちの生活実感としては、「景気が良くなった」「暮らしが豊かになった」とは感じにくいのではないでしょうか。
ここで大切なのは、物価が上がった理由を見ることです。現在の物価上昇には、需要が強くなったことだけでなく、原材料やエネルギーなどの費用が上がり、その負担が商品の価格に反映される「コストプッシュインフレ」の面もあります。
つまり、
| 人手不足によって失業率は低い 物価は上がっている それでも生活には好況感がない |
という、一見すると少し不思議な状況が生まれます。
見た目はフィリップス曲線に近くても、その中身まで同じとは限りません。失業率が低い理由と、物価が上がっている理由を分けて考える必要があるのです。
【4】景気を見る視点を増やそう
ここまで理解できると、景気を見るときの視点が一つ増えます。
これまでは、
・ GDPや成長率
といった「経済の大きさ」に注目してきましたが、これに加えて、
・ 失業はどうなっているのか
・ 物価はどう動いているのか
という点も同時に見る必要があります。
一言で言えば、
景気は一つの数字で判断できるものではない
ということです。
・ 生産
・ 雇用
・ 物価
これらをまとめて見ることで、初めて経済の状態が分かります。

この視点は、ニュースを理解するうえでも非常に重要です。
たとえば、
・ 「景気は停滞しているように感じるのに、物価が上がっている」
・ 「失業は改善しているが、生活は苦しい」
といった一見矛盾するような状況も、この関係を理解していれば納得できます。
【5】次回予告
ここまでで、景気の動きを
・ 需要
・ 景気循環
・ 失業
・ 物価
という形で整理してきました。
次回は、この流れを踏まえて、「政府や中央銀行は景気にどのように関わるのか」というテーマに進みます。これまで学んできた内容が、実際の政策とどのようにつながっているのかを見ていきたいと思います。
執筆者プロフィール

S(イニシャル)
1964年生まれ。
公務員試験対策予備校や大学・専門学校など、様々な現場で学生を指導してきました。
得意なのは大学レベルの経済学、経営学、会計学で、究進塾では主に大学単位取得サポートコース(オンライン)を担当。
長年の豊富な指導経験から、「学生のつまづくポイント」を的確に把握しています。
堅苦しい「経済学」という学問を丁寧に解きほぐし、わかりやすく説明します。
とても親しみやすい性格で、質問もしやすいです。
生徒様お一人お一人に合わせた、また基礎を大切にした丁寧な指導がモットーです。



