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【1】前回の確認と今回の問い

前回の記事では、「貯蓄のパラドックス」を通して、個人にとって合理的な行動が、社会全体では景気を冷やしてしまうことがある、という話を見てきました。
そこでは、貯蓄が家計にとっては安心を生む行動である一方で、マクロ経済の視点から見れば「国内経済循環からの漏れ」として働くことも確認しました
今回は、その話をもう一歩進めてみたいと思います。

ここで考えたいのは、景気を弱める「漏れ」は、貯蓄だけなのか、という問題です。

答えは、もちろんそうではありません。
経済循環を弱める力は、貯蓄以外にもいくつもあります。そして、そのことが分かると、私たちが日常で感じている不安や負担が、ばらばらの問題ではなく、実はかなり共通した構造を持っていることが見えてきます。


【2】消費抑制と増税という「漏れ」

まず分かりやすいのは「将来不安による消費抑制」です。
景気の先行きが不安なとき、人はなるべく支出を控え、少しでも手元にお金を残そうとします。家計の立場から見れば、これは自然な行動です。
しかし、こうした行動が社会全体で広がると、消費は減り、企業の売上は落ち、所得も減っていきます。つまり、将来不安はそのまま支出の減少を通じて、経済循環を弱めることになります

次に「増税」です。
税金が増えれば、家計や企業の手元に残るお金は減ります。すると、その分だけ消費や投資に回せる余地も小さくなります。
もちろん税には公共サービスを支える役割がありますから、単純に善悪では語れません。
しかし、景気への影響という観点から見れば、税負担の増加は、支出に回るお金を減らし、経済循環を弱める方向に働きます


【3】輸入とインフレも循環を弱める

さらに「輸入の増加」も重要です。
私たちが商品を買うとき、それが国内で作られたものであれば、その支出は国内企業の売上となり、国内の所得循環の中に戻っていきます。
しかし、輸入品を買った場合、その支出は海外へ向かいます。輸入そのものが悪いわけではありませんが、国内経済循環という観点から見れば、輸入は支出が外国に出ていくという意味で、「漏れ」として働きます

そして、見落としやすいのが「インフレ」です。
物価が上がると、名目上の給料が同じでも、買える量は減ってしまいます。
つまり、見かけ上は同じ所得でも、実質的な購買力は下がるわけです。
すると、家計はこれまで通りに支出しようとしても難しくなり、結果として消費が抑えられます。
この意味で、インフレもまた、家計の支出能力を弱め、経済循環を広がりにくくする要因になります


【4】共通する構造としての「漏れ」

こうして見ると、将来不安、増税、輸入、インフレは、一見すると別々の問題に見えます。

しかし、マクロ経済の視点から見れば、これらはすべて、国内経済循環を弱める「漏れ」として共通の性格を持っています

ここが大切な点です。
景気が広がりにくいとき、私たちはつい一つ一つの問題を別々に見てしまいがちです。
しかし実際には、それらは同じ方向に働いていることがあります。支出に回るはずだったお金が、さまざまな形で循環から外れたり、弱められたりしているのです


【5】乗数理論から見たまとめと次回への接続

前回までに見てきた「乗数理論」の言葉で言えば、

「漏れが大きいほど、同じ注入があっても経済は広がりにくくなります」。

つまり、景気を考えるときに重要なのは、ただ政府支出の大きさを見ることではなく、その支出がどれだけ国内経済循環の中に残り、どれだけ漏れていくのかを見ることなのです。

ここまで来ると、さらに次の問いが見えてきます。

物価が上がるとき、私たちは何を失っているのでしょうか。名目ではなく実質で見るとは、どういうことなのでしょうか。
次回は、この点をもう少し丁寧に考えながら、「インフレ」と「実質経済成長率」の問題へ進んでいきたいと思います。


執筆者プロフィール


S(イニシャル)
1964年生まれ。
公務員試験対策予備校や大学・専門学校など、様々な現場で学生を指導してきました。
得意なのは大学レベルの経済学、経営学、会計学で、究進塾では主に大学単位取得サポートコース(オンライン)を担当。

長年の豊富な指導経験から、「学生のつまづくポイント」を的確に把握しています。
堅苦しい「経済学」という学問を丁寧に解きほぐし、わかりやすく説明します。
とても親しみやすい性格で、質問もしやすいです。
生徒様お一人お一人に合わせた、また基礎を大切にした丁寧な指導がモットーです。


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