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【1】前回の内容と今回の問い ― なぜ100は100で終わらないのか

前回のブログでは、「政府が100の公共事業」を行ったとき、
その支出が一度で終わるのではなく「所得と消費の連鎖」を通して経済全体に広がっていく可能性があることを見てきました。

★前回のブログ記事:「市場は自動的に回復するのか」

「最初の支出」は止まったポンプに注がれる「呼び水」であり、その「一滴が需要の循環」を「再び動かし始める」という話でした。
ここでもう一歩だけ話を進めてみましょう。

政府が100の支出を行ったとして、

なぜその効果は「100で止まらない」のでしょうかなぜそこからさらに「所得が広がっていく」のでしょうか

この点を理解するために、ケインズは「人々の消費行動」に注目しました。


【2】消費と貯蓄 ― 所得の二つの使い道

人は所得を得たとき、そのすべてを使うわけではありません。もちろん生活のために消費はします。しかし同時に、すべてを使い切るわけでもなくその一部は手元に残します。「消費と貯蓄」は、所得の中から同時に生まれる「二つの使い道」です。

ここで、ケインズは消費を一つの式で表しました。

C = a + cY〔ケインズ型消費関数〕

ただし、式そのものより意味が大切です。

ここで「C」は「消費」、「Y」は「所得」です。

そして「a」は、所得がなくても生きていくために必要となる「基礎的な消費」を表しています。「衣食住に必要な最低生活費」のことです。専門用語では「a=基礎消費」といいます。さらに「c」は、所得が増えたとき、そのうちどれだけを消費に回すかという「割合」を示しています。この「割合」についても次回以降でもう少し丁寧に見ていくことにしましょう。


【3】所得が増えてもすべては消費されない

言い換えればこの式は、

人は所得が増えれば消費も増やすが、その増えた所得を全部使うわけではない

という、ごく自然な行動を表しているのです。

ここで、前回の100の公共事業の例に戻ってみましょう。

「政府が100の支出」を行うと、まず「100の所得」が生まれます。

しかし、その100の所得は次の段階ですべて消費されるわけではありません。ある部分は「消費」に使われ、ある部分は「貯蓄」されます。


【4】支出と所得の連鎖

仮に、所得の8割が消費され、残りの2割が貯蓄されるとしましょう。
すると、「最初の100の所得」からは「80の消費」が生まれます。この80は別の企業の売上となり、「新たな所得」を生みます。
しかしその80も、すべてが次の消費になるわけではありません。その「8割である64が次の消費」になります。

つまり、

100
→ 80
→ 64
→ 51.2
→ …

という形で、「支出と所得の連鎖」は続いていきます。

ここで大切なのは、これが単なる計算ではないということです。

これは、「経済循環」そのものを表しています。
「誰かの支出が誰かの所得」になり、その所得の一部が再び支出になる。経済はこの繰り返しの上に成り立っています


【5】貯蓄という「漏れ」と乗数理論

もちろん、この連鎖は永遠には続きません
なぜなら、所得が生まれるたびに、その一部は「貯蓄として循環の外へ漏れていく」からです

支出は循環を続けますが、貯蓄は循環を弱めます。したがって、最初の100の支出が経済全体を拡大させるとしても、その拡大には限界があります。ここが「乗数理論」の最も大切な点です。

「乗数理論」とは、単に「100が500になる」という計算の話ではありません。

支出が所得を生み、その所得の一部が再び支出に回るという循環が、貯蓄という「漏れ」を伴いながら、どこまで拡大するのかを説明する理論なのです。

言い換えれば、「乗数効果」とは、政府支出による「経済循環への注入」が、貯蓄という「経済循環からの漏れ」によって最終的に吸収されるまで続く「所得拡大の過程」だということです。


【6】ポンプの呼び水と経済循環

ここで前回見た「ポンプの呼び水」という比喩の意味が深くなります。
「呼び水は一度だけ」でよいのです。
重要なのは、その「一度の支出が循環を再起動させる」ことにあります。

もし社会の中でお金が眠っているだけなら、そこから何も生まれません。しかし支出として動き始めれば、それは所得となり、消費となり、生産となって、経済全体を押し広げていくのです。

ここまで見てきた内容は、数式で理解する前に、まず「経済循環の動き」として押さえておくべきものです。これを図で整理すると、次のようになります。

次回は、この連鎖の大きさを決めているものが何かを、さらに具体的に見ていきます。所得が増えたとき、人々はそのうちどれだけを消費し、どれだけを貯蓄するのか。その割合に注目することで、「乗数」の大きさがどのように決まるのかを整理していきましょう。


執筆者プロフィール


S(イニシャル)
1964年生まれ。
公務員試験対策予備校や大学・専門学校など、様々な現場で学生を指導してきました。
得意なのは大学レベルの経済学、経営学、会計学で、究進塾では主に大学単位取得サポートコース(オンライン)を担当。

長年の豊富な指導経験から、「学生のつまづくポイント」を的確に把握しています。
堅苦しい「経済学」という学問を丁寧に解きほぐし、わかりやすく説明します。
とても親しみやすい性格で、質問もしやすいです。
生徒様お一人お一人に合わせた、また基礎を大切にした丁寧な指導がモットーです。


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